高校留学のすべて 海外大学受験体験記

進路選択の基準は“世界で一番私に合う大学”
海外大学受験体験


海外大学 経済や産業がグローバル化するのに伴い、国際教育の必要性が叫ばれ、実際に、英語を中心とした教育を行う特区の学校なども生まれている。つまり、海外赴任などによる帰国子女でなく、生活のベースを日本に置く日本人家庭に生まれながら、国内で国際的な教育を受ける子どもたちが出現し始めている。

 こうした子どもたちの進路を考えるとき、彼らに必要な、世界を視野に入れた進路設計に対する的確なアドバイスが周囲の大人たちにできるだろうか。ある日本人の女子学生が経験した海外の大学への受験の様子を紹介しながら、現在の海外大学受験事情を探る。


アメリカの大学を受験する
すべての高校生が受けるテストSAT


 彼女、山岸光は、予備校で英語を教える日本人の父と、ごく普通の日本人の母の間に生まれた。両親の教育観から家庭では英語を中心に生活し、幼稚園からインターナショナルスクールに通い始め、今年6月、国内のインターナショナルスクールを卒業する。
  インターナショナルスクールの入学試験に合格した日本人の女の子は彼女を入れて4人だった。
4人は、彼女と同じように、日本人の家庭に生まれた子どもたちだった。周りのクラスメイトは当然ながら入れ替わりが激しいのだが、この4人は幼稚園から卒業まで一緒で、ハイスクールは別々の学校を選択したが、常に連絡を取り合い、助け合う仲だという。

 今回の大学受験においても、彼らは互いにアドバイスし合い、情報を共有し合い、励まし合いながらそれぞれの志望大学への合格を果たした。親に頼るという発想は当然ながら最初からなかった。
 彼女は卒業後、アメリカ、ニューハンプシャー州にある大学で学ぶ予定だ。IVYリーグに属するリベラルアーツ(教養)を主体とした名門大学で、アメリカ国内のランキングで10位以内に入る大学だ。

アメリカ大学キャンパス ここで、彼女が挑戦した米国の大学受験のシステムを紹介しよう。
 日本人が欧米の大学を受験する際によく出てくるのが、TOEFLやTOEICのスコアだが、これらは、英語を母国語としない海外の留学生の場合に必要とされる英語力を示す成績だ。彼女の場合は、アメリカに住むアメリカ人の学生と同じ条件下で試験を受けるので、こうしたものは必要なく、求められるのは、まず「SAT(Scholastic Assessment Test大学進学適性試験)」という大学を目指す米国の高校生が受ける共通テストのスコアだ。日本の「センター試験」と違うのは、1年間に数回実施されるという点だ。
 この試験会場は世界各国にあり、日本に住む学生は日本の会場でこの試験を受けることができる。何度も受けることができ、受験生はその中で自分で納得できる成績をピックアップして提出することができる。

 ほかに要求されるのは、学校での成績表となるGPA(grade point average)と学校の先生からの推薦状。多くの大学はこれに小論文にあたる「エッセイ」の提出を求めている。
もちろん成績表が必要ない大学や、エッセイでなくA4の紙に絵でも文章でも楽譜でも得意なものを表現せよというところなど、大学によってさまざまだ。
 12年生になってからは彼女もSATのテストを3回受験した。

 エッセイのテーマは、「ブラッド・ダイアモンドについての考察」。近年、問題になっている、ダイアモンドに関わる現地での搾取など人権問題についての認識を高めるために、彼女はアムネスティが行う調査を手伝う活動をした。この経験にもとづいて、論文にしたのだ。
 「この問題への認識を高めたいという思いで、都内の宝石店を訪ねて回りました。不審者と間違われて警備員を呼ばれたこともあります。そんな経験をひっくるめて、自分のバックボーンと経験、そこから導き出されるオピニオン、こうしたものをまとめました」

受験の情報はインターネットと
学校のカウンセラーから


 こうした彼女の大学受験を支えた最大の存在は、通う学校のカウンセラーだったという。

「学校以外の塾に通ったことも家庭教師についたこともなかった私は、1年前まであまり受験というものを意識したことがありませんでした。どの大学が自分に合っているのかと考え始めたとき、まずカウンセラーに相談しました」
 彼女の学校では各学年ごとにカウンセラーがいて、上の学年のカウンセラーには、大学受験について経験の豊富なスタッフが配されている。
 「志望校の名前を書いて提出すると<reach〜もしかしたら入れるかも><probably〜可能性大><safety〜安全>の3段階で評価してくれます。それから具体的に自分の力や自分自身のやっていきたいことなどについて考え、それに合う大学はどこなのだろうかと調べ始めました」

 SATやGPAは重要でも、勉強以外の、クラブ活動なども大きな要素になる。彼女は9年生のときに生徒会長を務めた。クラブ活動も熱心で、クロスカントリーを長く続けている。
 「SATで満点をとっても、まったくスポーツをしないとか、課外活動に熱心でなかったりすると合格しないというケースが多々あります。もちろん天才のような、特別な能力を持っている人を求める大学もあります。学生も、その学校で求めるパーソナリティをよく理解して受けることが大切です。私も、自分に合う大学はどこなのか、一生懸命調べました。自分で調べた情報と、カウンセラーのアドバイスや友人同士の情報交換などさまざまな情報をもとに、志望校を絞っていきました。実際に学生の受験を見守ってきたカウンセラーによる大学の情報は非常に役に立ちました」

 志望校を数校に絞ると、最終的に定められた期間内に志望校各校に必要な書類をメールで送る。
 「提出書類が足りなかったり、内容に不備があれば、大学から連絡が来て、後で送ったりしていました」
 書類に不備があると受け付けてもらえないのではないかといった類の緊張はなかったという。

学業成績、さまざまな活動から
クラスを構成するという発想


キャンパスツアー 4月1日に合否が決定されると、5月1日までの1カ月間は、各校でキャンパス・ツアーが行われる。1カ月かけて、学生たちは合格した複数の学校を見学に行く。彼女もこの期間に志望する大学を訪れた。
 「キャンパス内を回っていると、その大学の学生が『どの大学と迷っているの?』と積極的に話しかけてきて、答えると『あそこと迷っているなら、絶対うちの大学の方がいいよ』と熱心に勧めてくれます。みんな自分の大学が大好きだから、心から誘ってくれている。その雰囲気が楽しかった」

 合格判定後に1カ月をかけて、大学は学生からじっくり審査され選択される。
  10〜11月ごろに申し込み、結果が出るのは4月1日。これほど長い期間をかけてどんなことを審査するのだろう?
 「成績の優秀な順に上から合格、ということではなく、学業成績とともに、スポーツやボランティアなどでリーダーシップを発揮して積極的に活動してきたかといった総合的な判断をします。聞くところによると、審査は1つの部屋にメンバー全員が集まり、1人ひとりの情報をスクリーンに映し出し、この学校に合うかどうかを判断していくというスタイルが多いようです。その際重視されるのはバランス。クラスを作る、という発想で判断が行われます。授業の中で、意見交換が活発に行われ、互いに高めあっていけるクラス作りをするため、クラスのメンバーを決めていくという考え方で判断するようです」
 こうした考え方は、幼稚園でインターナショナルスクールを受けたときから始まり、これまで彼女が受けてきたどの試験にも共通するコンセプトだったという。
 インターナショナルスクールの試験の際も日本人のパーセンテージは20%、このほか、一時的に日本に住んでいる外国籍の子どものパーセンテージ、ハーフの子どものパーセンテージがそれぞれ決まっていた。

正解を教えてもらうのではなく
自分にとっての正解を求める手段を学ぶ


 彼女自身、自分がほかの日本の子と違う教育を受けていることを意識したのはいつごろなのか聞いてみた。
 「はじめて意識したのは、習い始めた合気道の教室で会った日本人の子たちと話したとき。同じ学年なのに、日本の学校のほうがずっと先に進んでいて、算数なんか、すごく難しいことを知っていたから、すごいなと思っていました。それと、暗記することがたくさんあって、勉強イコール暗記という印象でした。授業の様子も違っていると感じました。彼女たちの授業は、先生の話を聞いて、それを覚えるのが基本のようだったけれど、私たちは情報が与えられ、それについてディスカッションすることが中心でした。たとえば作文でもグループのみんなで読んで、意見や感想を言い合います」

 常にオピニオンが問われる、こうした教育を受けてきた彼女は、その違いをこんな風に言い表す。

 「日本の教育は、正解を教えてもらう教育。私が受けたのは、正解は一人ひとりで違うから、自分にとっての正解を導き出すために必要な、調べ方や情報の集め方を教えてもらう教育」

 その教育の成果は、彼女の進路の選び方にいかんなく発揮されたといえる。
 ちなみに、この合気道教室で知り合った同学年の女の子2人とは合気道をやめた今も交流があり、うち1人は英語を勉強してアメリカへ留学し、1人はスペインに関心を持ち、独学でスペイン語を勉強し、現在スペインに留学中。彼女はスペイン人同士のチャットなどにも参加し、言葉をマスターしたという。合気道教室で出会った女の子が話すインターナショナルスクールでの学校生活の様子が彼女たちに大きな影響を与えたことは想像に難くない。

 彼女が心配しているのは、軽い気持ちで海外へ留学しようとする若者のことだ。

 「アメリカの教育制度は日本と違う部分も多く、州ごとに制度の違いもあります。一言で大学といっても、近年注目されているリベラルアーツのように教養学部のみの大学など、日本にない種類の大学も多く、行ってみたら思っていた内容と異なっていた、ということにならないよう、本当に自分がやりたい勉強は何なのか、それに合う学校はどこなのか、自分自身で納得できるまで調べ、そのために今できる準備は何なのかと考えて欲しい」

 実際に、彼女が出会った高校生の中にも、希望すれば誰もが入学できるアメリカのコミュニティカレッジ(カルチャーセンター的、専門学校的な2年制の公立学校)を日本の「大学」と同じ種類の大学と勘違いして入学したり、そのために業者に多くの代金を支払って後悔する例などを数多く見てきているという。
 「やはり自分の進学先なのだから、自分が主体的に調べて選んで欲しい。その準備として英語を習う場合も、自分に必要な学習を明確にして、主体的に活用できればプラスになると思う」
 と、同世代に警鐘とエールを送る。

 成績だけではない、多様な選択肢の中から自分に合う学校をじっくり探すための情報を届ける仕事を中心としている我々にとって、彼女が受けた教育のなかに、私たちが求める教育の片鱗を見ることができたし、“世界で一番私に合う大学”を探す子どもたちに対応できる社会の進路選択に対する彼女の考えが非常に参考になった。